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心通わす「愛語」の響き

ある時、見知らぬ人から突然、厳しい言葉を投げかけられました。心が一瞬ざわつきましたが、ふと、「この人は、幼い頃どんな子どもだっただろう」と思いを馳せてみました。私たちの日常に存在するコミュニケーションの壁は、この小さな心の変化で、驚くほど乗り越えられるかもしれません。

心を開く「愛語」の智慧

私たちは、日々多くの人とコミュニケーションを取っています。しかし、時に意見の食い違いや誤解から、人間関係の「壁」を感じることがあります。たとえ相手が上司であっても、その人自身が信頼や尊敬に値しなければ、その言葉は心に響かないものです。役職や立場だけで人が動くわけではなく、その人の「働き方」や「姿勢」が、周りの人々を動かす力となるのです。
仏教に「愛語(あいご)」という教えがあります。これは、まさにコミュニケーションの極意と言えるでしょう。愛語とは、これから言葉を交わす相手や、自分に言葉を投げかけてきた相手を、「生まれたばかりの赤ちゃん」だと思って接するという心持ちです。
私自身、この教えを実践する中で、大きな変化がありました。例えば、お坊さんだと知らずに「お坊さん嫌い」と面と向かって言われたこともあります。しかし、その人が幼い頃どんな子どもだったかを想像すると、腹立たしい気持ちが和らぎ、「元気な赤ちゃんが何か文句を言っているな」と受け止められるようになりました。相手の言葉の裏にある、幼い心や不安、不満といった感情を理解しようと努めることで、コミュニケーションの壁は、少しずつ溶けていくのではないでしょうか。

相手の「なぜ」に寄り添う

コミュニケーションの課題は、往々にして、相手の「なぜ」を理解しようとしないことから生まれます。仕事でミスが起きた時、「何を間違えたのか」「どうすれば良かったのか」という表面的な部分に目を向けがちですが、本当に大切なのは「なぜそうなったのか」という、その根源的な理由を考えることです。
かつて、ある相談者の方が、部下の失敗を許せないと悩んでいました。その部下は何度も同じ失敗を繰り返し、そのたびに自分が上司から指導されることに不満を感じていたのです。また、ご主人が緊急事態宣言下にもかかわらず、ゴルフに行くことを許せないという悩みもありました。これらの問題の根底には、「他人のせいで自分が不利益を被ることが許せない」という思いがあります。しかし、人間関係には、車に例えるなら「遊び」の部分が必要です。完璧さを求めすぎると、かえって大きな問題に繋がることがあります。
相手がなぜそのように行動するのか、なぜそのような考え方をするのか。その「なぜ」を深く探る姿勢を持つことで、私たちは相手の本質を理解し、表面的な言動に惑わされることなく、より広い視野で物事を捉えることができるようになります。

あなたの「姿勢」が壁を溶かす

管理職の立場にある方から「部下が言うことを聞かない」という相談を受けることがあります。しかし、部下は役職についてくるのではなく、その人の「姿勢」や「あり方」についてきます。言っていることとやっていることが違ったり、口ばかりで行動が伴わなければ、信頼は得られません。
コミュニケーションの壁を乗り越えるためには、まず、自分自身の「役割」を正しく認識することが重要です。管理職であれば、チームの目標達成のために規律を徹底し、それを部下にきちんと伝えていく役割があります。そして、もしあなたが誰かにアドバイスをする立場にあるなら、ただ言葉を伝えるだけでなく、その教えを自ら「体現」しているかどうかが問われます。
ある時、自転車に乗れない子どもを持つ父親から相談を受けました。私は父親に「教えるのをやめて、自転車に乗れる近所の友達と遊ぶ機会を作ってあげてください」と伝えました。すると子どもは、友達の姿を見て、すぐに自転車に乗れるようになったのです。言葉で説くよりも、自らがその姿を見せ、実践する。それが、最も力強いコミュニケーションであり、人々の心を動かし、人間関係の壁を溶かす秘訣なのです。あなたの誠実な「姿勢」が、周囲との調和を生み出し、心通わす豊かな関係性を築いていくことでしょう。

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