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過去の失敗、どう乗り越える?

私たちは皆、人生の中で「取り返しのつかない失敗」をしてしまうことがあります。それは仕事上のミスであったり、人間関係での過ちであったり、あるいは不注意によって他者を傷つけてしまうことであったりするでしょう。そのような時、私たちは猛烈な自己嫌悪に陥り、過去の出来事がフラッシュバックして、苦しみから逃れられなくなることがあります。
しかし、仏教の智慧は、私たちが感じる「恥ずかしい」という感情そのものに、大切な意味があると教えています。「慚愧(ざんき)」という言葉は、「恥ずべきことを恥じる心」と「恐れるべきことを恐れる心」を意味します。つまり、失敗を恥ずかしいと思う心があるからこそ、私たちは同じ過ちを繰り返さずに成長できるのです。
過去の出来事は変えられません。それは、すでに終わったことです。私たちは、過去に犯した罪や過ちを、あたかも自分の心を縛る「呪い」のように感じてしまうかもしれません。しかし、過去の出来事から逃げようとすればするほど、それは私たちを追いかけ、苦しめ続けます。
大切なのは、その過去の出来事を「なかったこと」にするのではなく、冷静に「観察」することです。それはまるで、遠くから他人の過去を眺めるように、自分自身の経験を見つめ直すことです。痛みを伴う記憶が蘇ることもあるでしょう。しかし、その感情を否定せず、何度も泣き、苦しむことを許してください。そうすることで、その記憶は少しずつ薄れ、やがて私たちを縛るものではなくなっていくでしょう。過去は、私たちを成長させるための大切な経験なのです。

後悔を乗り越え、未来を拓く智慧

過去の失敗や後悔に囚われ続けると、私たちは「なぜ自分だけがこんな目に」と、自己中心的な思考に陥りがちです。しかし、世の中には、私たちと同じ、あるいはそれ以上に苦しい経験をしている人がたくさんいます。大切なのは、自分を被害者として捉えるのではなく、その経験から何を学び、どう行動していくかです。

私自身も、過去には様々な経験をしてきました。家族の死、理不尽な出来事、自分の不器用さからくる失敗など、数え上げればきりがありません。しかし、それらの経験を「修行」と捉え、乗り越えていく中で、人は強くなり、優しくなれるのだと学びました。

苦しい状況に直面した時、私たちは「逃げる」という選択肢を持つことができます。しかし、時には「戦う」という選択も必要です。その「戦い」とは、決して他者を打ち負かすことではありません。自分自身の内側にある恐怖や不安と向き合い、それを克服することです。そのために必要なのは、「汝自身を知り、相手を知り、仕事を(状況を)知る」という準備です。過去の出来事が辛すぎて、どうしていいか分からない時には、まずその状況を冷静に分析し、自分にできることは何かを考えることが、未来を拓く第一歩となるでしょう。

そして、過去の経験を乗り越えるために、「誓願(せいがん)」という仏教の教えがあります。これは、単なる「夢」や「希望」ではなく、「こうなる」と強く心に誓い、そのために「こうしたい」と願うことです。過去の失敗を悔やむのではなく、その経験を糧にして「自分はこんな人間になりたい」「こんな社会貢献をしたい」と明確な誓願を立てることで、私たちの心は未来へと向かい、新たな道が拓けていくでしょう。

「新しい自分」として生きる喜び

私たちは、人生のどこかの時点で、過去の自分を「死なせる」経験をすることがあります。それは、大きな挫折や、絶望的な出来事かもしれません。しかし、その経験を経て「生き延びた」私たちは、もはや過去の自分ではありません。あたかも、一度死んで「新しい自分」として生まれ変わったようなものです。
私は、過去の自分を「ゾンビのように生きている」と表現することがあります。それは、過去の習慣や思考に囚われ、新しい自分として生ききれていない状態です。しかし、私たちは、常に新しい細胞に入れ替わり、変化し続ける「命」そのものです。肉体も心も、常に新しく生まれ変わっているのですから、過去の自分に執着する必要などありません。
もしあなたが過去の失敗に苦しんでいるなら、「過去の自分は一度死んだのだ」と考えてみてください。そして、今ここにいるあなたは、過去の経験を背負いつつも、全く新しい可能性を秘めた「赤ちゃん」のような存在だと捉えてみましょう。その新しい「私」は、これから自らの足で、世間の荒波を乗り越えていくことができます。
大切なのは、過去の自分を「死にきれていない」と責めるのではなく、その経験があなたを強くし、成長させてくれたのだと理解することです。過去の苦しみがあったからこそ、あなたは他人の痛みに寄り添える優しい心を持つことができたのかもしれません。新たな一歩を踏み出す勇気を持ち、今、ここにある「新しい自分」の命を精一杯生きることで、心の奥底から「生きていてよかった」という喜びが湧き上がってくるでしょう。

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