1. HOME
  2. ブログ
  3. お坊さん日記
  4. 「人生のテーマ」はどこに?

「人生のテーマ」はどこに?

私たちの人生には、「本当にやりたいこと」や「生きる意味」が見えず、漠然とした不安を抱える時期が訪れることがあります。それはまるで、広大な海原で羅針盤を失ったような感覚かもしれません。では、自分だけの「人生のテーマ」を見つけ、情熱を持って生きるにはどうすれば良いのでしょうか。

「意味」は自ら生み出すもの

「なぜ生きるのか」という問いは、古くから多くの人々が抱いてきた根源的なものです。仏教では、この問いに「普遍的な答えはない」と説きます。人間は、自らの行いに「意味づけ」をすることで、初めて生きやすくなる生き物だからです。それは、まるで真っ白なキャンバスに、自分だけの色彩で絵を描いていくようなものかもしれません。
ある男性は、経済的には恵まれ、安定した生活を送っているものの、心に「虚しさ」を感じていました。彼は幼い頃から「ITがこれからは来る」という周囲の声に流されて今の仕事を選び、必死に働いてきましたが、「本当にしたいこと」が見つからないという悩みを抱えていました。周りからは「器用貧乏」と言われ、何から手をつけて良いか分からず、不安を感じていたのです。
彼は自分が得てきたキャリアやスキルに自信を持ちながらも、それが心からの充実感に繋がっていないことに戸惑っていました。私たちはしばしば、「好きなこと」や「得意なこと」の中に天職があると考えがちですが、必ずしもそうとは限りません。本当にやりたいことが見つからない時、それは「自分自身が、自分の人生に意味を与えられていない」という状態なのかもしれません。
人生の意味は、誰かに与えられるものではなく、私たち一人ひとりが日々の行動や選択を通じて、自ら見出していくものなのです。

苦手なことの中に「使命」が宿る

では、「人生のテーマ」や「天職」はどこで見つけられるのでしょうか。意外なことに、それは「自分が最も苦手だと感じること」や「全く興味がなかったこと」の中に隠されている場合があります。私たちは、苦痛や困難から逃げようとしますが、そこにこそ、自己成長の大きなヒントが秘められているのです。
私が若い頃、漠然とした将来への不安を感じていた時がありました。特に「これがしたい」という明確な夢は見つからず、かといって「このままでいい」とも思えませんでした。そんな時、友人が空手を始めたことで、彼の生活が劇的に変わっていくのを目の当たりにしました。それまで格闘技には全く興味がなかった私ですが、その友人の姿に触発され、私も空手道場への入門を決意しました。
空手は、私にとって痛みや苦しみを伴うものでしたが、そこで「諦めない」という姿勢を学びました。明確な目標がなくても、「今、ここで自分にできること」を全力で取り組むことで、新たな可能性が拓けることを知ったのです。それは、自分の弱点や苦手なことにあえて向き合い、それを克服しようとすることで、内側から「情熱」が湧き上がってくるような体験でした。
人生は、常に楽しいことばかりではありません。苦しい時期、辛い時期も必ず訪れます。しかし、そうした困難な時こそ、自分の真価が問われる時です。たとえ漠然としていても、「こんな自分にはなりたくない」という思いがあれば、それを避けるために何ができるかを必死に考えることが、やがて自分だけの「天職」へと繋がっていく道となるでしょう。

「与える喜び」が導く真のテーマ

私たちの「人生のテーマ」は、自分自身の欲求を満たすことだけではなく、他者に「与える喜び」の中に見出すことができます。仏教では、「抜苦与楽」(人々の苦しみを抜き去り、喜びを与える)という菩薩の精神を説きます。これは、まだ完璧ではない私たちでも、苦しんでいる人に寄り添い、智慧や勇気、喜びを与えようと努力する姿勢のことです。
真の「天職」は、お金儲けだけを目的とするのではなく、人々の悩みや苦しみを解決することから生まれます。誰かの「困りごと」に耳を傾け、自分の持てる知識や技術、時間を使って、その人の役に立つこと。そうやって、社会に「価値」を生み出すことができた時、私たちは深い充足感と、生きがいを感じることができます。それは、私たちの先祖が、苦労を重ねて家族や地域に貢献してきた姿にも通じるのではないでしょうか。
先祖供養もまた、「与える」という行為の美しい形です。亡き先祖に感謝の気持ちを捧げ、供養の行いを続けることは、私たち自身の心に平安をもたらし、生かされていることへの感謝を深めます。そして、先祖への感謝の念が強まるほど、私たちは「自分も誰かの役に立ちたい」「社会に貢献したい」という、より大きな「人生のテーマ」を見出すことができるようになるでしょう。
もし今、「人生のテーマ」が見つからず悩んでいるなら、まずは身の回りの人の「困りごと」に目を向けてみてください。そして、あなたが持っている小さな「何か」を、惜しみなく与えてみましょう。その「与える喜び」こそが、あなた自身の心に情熱の火を灯し、あなただけの「人生のテーマ」へと導いてくれるはずです。

関連記事

最近の記事

お問い合わせ

問い合わせボタン

お問い合わせ