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人生の意味を見つめ直す:今を生きる先祖供養の視点

誰もが一度は「私は何のために生きているのだろう」と、人生の意味を問い直すことがあるのではないでしょうか。漠然とした虚無感に襲われる時、あるいは人生の目的を見失いかけた時、私たちはどこに心の拠り所を見つければ良いのでしょうか。禅の教えは、この問いに真正面から向き合い、「今を生きる」ことの尊さを教えてくれます。

問いが生まれた日

ある日、私の心は漠然とした虚無感に襲われました。特別大きな挫折や失敗があったわけではありません。むしろ、これまで順調に人生を歩んできた方かもしれません。しかし、心の奥底では、何のためにこの日々を過ごしているのか、生きている実感がないという感覚に苛まれていました。まるで、誰かが用意してくれたレールの上を走り続け、目標をクリアすることだけを求められてきた人生の終着点が見えてきたかのような感覚です。
私たちは、幼い頃から常に外側の目標を追い求めてきました。学校での成績、部活動での勝利、就職、結婚、子育て……。これらの目標を一つ一つ達成していくことで、人生は充実し、幸せになれると信じていました。しかし、いざそれらを手にしてみると、心の底からの満足感や、燃えるような情熱を感じられないことがあります。経済的に満たされていても、なぜか心は空っぽ。それは、まるで人生が、すでに結果が決まっている「消化試合」のように感じられる瞬間です。
この感覚は、決して珍しいものではありません。多くの人が、人生のどこかで同じような問いに直面します。特に、物質的な豊かさが手に入りやすくなった現代において、私たちは「与えられる」ことには慣れていますが、「与える」こと、そして「自分自身の内側」に目を向けることを忘れてしまいがちです。人生の意味は、外側に探し求めるものではなく、私たち自身の内側にこそ存在しているのです。

「今」に生きるということ

人生の意味が見つからない時、私たちは未来への不安に囚われたり、過去の出来事を悔やんだりしがちです。しかし、過去はすでに過ぎ去り、未来はまだ来ていません。私たちが唯一、その力を発揮できる場所は「今、ここ」しかありません。

鮭の群れを例に考えてみましょう。鮭は、数千キロもの旅を終え、生まれ故郷の川に戻ってきます。そこで子孫を残すという役割を終えると、静かにその命を終えます。彼らは、自らの役割を全うすることに迷いがありません。しかし人間は、発達した脳を持つがゆえに、死を意識し、それに伴う恐れや悲しみを感じます。死を恐れるあまり、今を全力で生きることから目を背けてしまうこともあるのです。

仏教では、死後の世界について明確な答えを出すことを避けました。それは、死後の世界がどうであるかを知ることよりも、生きている間に「何を想い、何を話し、何を行ったのか」という「業(カルマ)」が、死後にも私たちに付き従うと説かれたからです。つまり、今この瞬間に、私たちがどう生きるか、何を選択するかが、何よりも大切なのです。

もし今、生きがいを感じられないとしても、何もしないでいるのはもったいないことです。たとえ楽しくなくても、苦しくても、目の前にある「今、ここ」でできる最善のことを、全力でやってみてください。それは、まるで武士が、いつ抜くかわからない刀を、いざという時のために日々磨き続けるようなものです。今の地道な努力が、未来の自分を形作り、人生に新たな意味を与えてくれるはずです。

命の連なりと先祖供養の真意

人生の意味は、私たち一人ひとりの命が、先祖から受け継がれ、未来へと繋がっていく「連なり」の中にも見出すことができます。私たちは、ご先祖様が生きてくださったからこそ、今ここに存在しています。そして、その命を未来へと繋いでいく使命を、私たちもまた担っているのです。
お盆や先祖供養の儀式は、単なる習慣や形式ではありません。それは、亡くなった大切な人や先祖の存在を「諦め」(明らかにし、受け入れ)ていくプロセスです。私たちは、愛する人を失った時、悲しみや怒り、絶望といった様々な感情に襲われます。しかし、時間をかけ、故人の生きた証を見つめ、感謝の気持ちを捧げることで、徐々にその死を受け入れ、心に平安を取り戻していくことができます。それは、私たち自身の心が成長していく過程でもあります。
先祖供養とは、過去の人を祀る行為を通じて、私たち自身が今をどう生きるかを見つめ直す機会を与えてくれるものです。ご先祖様が生きてきた苦労や喜び、そしてその生き様を深く理解しようとすることは、私たち自身の人生に深みと意味を与えてくれます。自分の命が、遙か昔から続く大きな流れの一部であると実感した時、私たちは一人ではないという確かな心の支えを得ることができます。そして、この命の連なりを未来へと大切に繋いでいくことが、私たちにとっての大きな生きがいとなり、心の豊かさをもたらしてくれるでしょう。

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